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​研究留学

米国スタンフォード大学 胸部心臓外科 荒川 衛

2013.5-2015.7

カリフォルニアとスタンフォード大学

 アメリカ合衆国カリフォルニア州パロアルト市付近に本部を置くスタンフォード大学。サンフランシスコから50kmほど南東に位置し、シリコンバレーの中心である。キャンパスの広さは全米屈指で約1000万坪あり、東京ドームが約700個入る広大な敷地を有している。北カリフォルニアの気候で夏は一切雨がふらず、ほぼ毎日快晴である。研究生活を行うには環境が重要であることを思い知らされる空間を有している。私が渡米した2013年のノーベル賞受賞者にも二人が名を連ねており医学・生理学賞には「細胞の輸送システム」 としてトーマス・スードフ氏が、化学賞には「分子動力学シミュレーション」 マイケル・レビット氏が選出されている。

シリコンバレー

 シリコンバレーはIT産業のメッカであり、Google、Appleを始め、Facebook、Skype、EvernoteなどのIT関連会社の本社が数多く存在し、さらには医療ベンチャーの会社も多く存在する。これまで医療系の企業というと、製薬企業か、医療器機企業を想像していたが、シリコンバレーでは医療アプリ開発を行っている企業の方との出会いもあった。さまざまな分野で新たなビジネスを展開することを考えている方々に、臨床医としての経験から話せる話があるということが、非常に新鮮であった。

スタンフォード大学胸部心臓外科

 スタンフォード大学胸部心臓外科は歴史的に有名であり、Norman Shumway医師が心臓移植のパイオニアとして名高く、さらに急性大動脈解離の分類であるStanford分類は今日でも幅広く臨床で使用されている。現在も、大動脈弁輪拡張症に対するDavid手術を積極的に行っており、さらには心臓移植や補助人工心臓治療も行っている中核施設である。

2013年5月から スタンフォード大学胸部心臓外科に研究留学し、マルファン症候群の 大動脈瘤発生機序、診断、予防方法の研究を行っている。まず、我々はFibrillin 1 のTransgenic mouseを有しており、それは週齢とともに大動脈基部および上行大動脈の拡大を呈する。以前より、マルファン症候群の大動脈形成に、TGF-β シグナルが重要であることが示されているが、その下流経路はまだまだ不明な点が多い。我々は幼少期からのスタチン投与が有効であることが示し、それがTGF-βの下流シグナルであるRasが重要であることを突き止めた。マルファン症候群は遺伝性であり、幼少期からの薬物療法で、大動脈拡大を予防し、大動脈解離の発生を抑えることができればマルファン症候群の予後を改善することに寄与できると考えている。本研究の成果は2018年Journal of American Heart Associationに掲載された。

さらに、スタンフォード大学ではマルファン症候群患者の手術を多く行っており、IRBの認可のもと患者の大動脈組織を採取している。大動脈瘤の発生、進展機序に関しては動脈平滑筋細胞の関与が大きいと考えられている。マルファン症候群患者皮膚から作成したiPS細胞を平滑筋細胞に分化させ、実際の大動脈から分離した平滑筋細胞との相違、類似点を検討した。これにより、大動脈という生検不可能な組織をiPS細胞から分化させたもので診断のツールとして使用する方法を見いだすことを目指した。iPS 細胞の研究を行うためカリフォルニア州立大学サンフランシスコ校Gladstone研究所でも研究をおこなった。Gladstone研究所はノーベル賞受賞者の山中伸弥教授が博士研究員として所属していた研究所であり、現在も山中先生の研究室が存在する。強いバックアップの元、研究を進めたが、壮大なプロジェクトゆえ、留学中に成果が出ることはなく、他の研究者にプロジェクトを引き継ぐ形で帰国した。

アメリカ合衆国での生活

  大学6年時にハワイ大学へ1ヶ月の留学プログラムに参加し、ハワイといえど、誰も助けがない状態で病院や宿舎の手配をするという苦労をした。年を越えての滞在は、一味違う。ビザ取得、ライフラインのセットアップ、様々な壁があった。スタンフォード大学の周囲は比較的安全な地域である。しかし盗難はある。まず、最初に盗まれたのは自転車の前輪であった。日本で前輪が盗難にあうことはなかなかないと思うが、アメリカではよくあることらしい。前輪だけチェーンをかけると本体と後輪が盗まれる。車にバッグを置いておくと、窓ガラスを割られて、全て取られるという知人もいた。命の危険はあまり感じなかったが、盗難に対する意識は持たなければならなかった。

臨床医としての生活と違って、病院からの電話に怯えることはない。時間は好きに使うことができる。私の留学生活での一つの成果は自家用飛行機のライセンスの取得であった。10ヶ月間、毎週土曜日に訓練を受けて、自家用単発飛行機の免許を取得した。語学の勉強も兼ねてであるが、外科医のトレーニングに通じる、手技修練の場となった。休日の使いたかも自由で、必要あれば実験をするし、余裕があればもちろん遊んでも良い。休日に仕事をしているのは日本人と中国人ぐらいだと言われたこともある。週明けにHow was your weekend?と聞かれて仕事をしていたなんていうとむしろ心配される。海外の友人もできたが、海外にいる日本の友人が重要であった。海外で出会う日本人は、結束力がある。日本に戻った今も、スタンフォード大学での繋がりで仕事を行うことが多々ある。シリコンバレーは世界の良い文化が集まっていると言われる。他では進まない話がシリコンバレーでは進むということが多々あるようだ。留学には様々な形態があるし、一概に成果で測れるものではない。人生においての一つの大きな思い出として、スタンフォード大学への留学はかけがえのないものとなった。

このウェブサイトは、一部、旧若手心臓外科医の会のホームページの内容を移行して作成しております。
内容に関しては、一般社団法人若手心臓外科医の会の総会の決議で本ホームページに移行することを決定しまいたが

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